香辣天下!中国最大級の唐辛子市場、貴州省遵義の蝦子鎮へ

中国人に「貴州省で知っている都市名は?」と尋ねたら、恐らく多くの方が「遵义(遵義)」と答えるのではないだろうか。貴州省の省都・貴陽の名は知らなくても、この土地の名前は知っている。

なぜならここは「革命の聖地」であり、中国の歴史の教科書に必ず出てくる場所だからだ。

遵義会議跡地。外国人も入場無料。

貴州省北部に位置する遵義市は、1935年1月、毛沢東が中国共産党軍(紅軍)の主導権を握ることを決定づけた「遵義会議」が開かれた場所。詳しくは歴史の本やサイトに譲るが、中国近代史上重要な役割を果たした場所であり、遵義は「赤」の象徴でもある。

しかし胃袋目線で中国を旅していると、別の赤が眩しい。唐辛子だ。

唐辛子というと、日本人は直観的に四川省を思い浮かべるかもしれないが、貴州省こそ「辣(ラー:辛い)」な省だ。唐辛子の栽培面積は約545万畝(約539,550,000㎡)で中国一。圧倒的な知名度を誇る「老干妈(老干媽:ラオガンマー)をはじめ、唐辛子加工企業の数は中国で最も多い。(参考:中新網貴州 2020年8月6日

なかでも遵義は産地直結の集積市場がある場所で、虾子(蝦子:シャーズ)鎮では古くから業務用の売買が行われてきた。毎年8月には遵义国际辣椒博览会(遵義国際辣椒博覧会)が開かれ、インドやタイやロシアなど、各国から唐辛子の専門家がここ遵義に集う。遵義会議も赤いが、これもかなり赤い。

いざ唐辛子の聖地、蝦子(シャーズ)鎮へ!

そんな遵義を訪れたのは、2019年11月のこと。ニューヒナベパラダイスの次のテーマを「豆と唐辛子」にしようと思っていたこともあり、ツアーロケハンを兼ねた旅だった。

遵義駅は中国を感じるモダンな駅舎。

この旅では、貴州人リンちゃんと北西部の大方→黔西→貴陽へと、豆腐と豆豉を巡って東へ進んできたが、貴陽から遵義にかけての唐辛子旅は私1人で一路北上。

しかし1人では胃袋力が弱すぎる。そこで助っ人になってくれたのが、当時遵義に住んでいたこの方だ。

ミスター遵義唐辛子。

実はこの方、日本唯一と噂される新小岩の貴州料理専門店「貴州火鍋」の老板娘のお兄さん。予定では老板娘の林さんと現地合流する予定だったのだが、急遽来られなくなったため「兄が案内するわ!」ということに。当然、お兄さんとは初対面だ。

いざ唐辛子の聖地、蝦子(シャーズ)鎮へ!

合流して向かったのは、唐辛子の聖地・遵義市の蝦子(シャーズ)鎮。遵義駅から蝦子鎮の唐辛子市場までは約40km弱、車で50分ほど。中国でローカルバス旅をするときにはおなじみ、小型バスが走る道を西へ向かう。

小型バスを見ると田舎の旅を思い出す。

蝦子鎮に到着したことは、特に標識がなくてもわかった。周りを見渡すと、唐辛子推しの看板があちこちに現れるからだ。

なかでも信号待ちで見たホテルの名前が、辣椒城大酒店(唐辛子グランドホテル的な名前)だったのには思わず笑ってしまった。

赤い本拠地に来たぞー!

腹ごなししてから、昔の市場があったという場所を訪れると、唐辛子専門店がずらり。人々の往来を見ていると、馴染みの店の前に車を横付けし、買い付けにくる人が後を絶たない。

「昔はこの裏側に唐辛子市場があって便利だったんだけど、数年前に移転してしまってね。ここから離れた場所に新しい市場ができたんだよ。ちょっと知り合いと待ち合わせしているから行こう」

なんと、お兄さんは懇意にしている唐辛子屋さんに話をつけ、業者の取引が行われる市場に入れるように段取ってくれたのだ。ありがたい…!

CHINA CHILI CITY、略して「CCC」。

唐辛子業者の宋さんと合流し、ともに訪れたのは「中国辣椒城」ことChina Chil City、略してCCC。ここは遵義を中心に、貴州省全域から唐辛子が集められているという流通の一大拠点だ。

余談だが、私が新卒で入社した会社の略称がCCC。遵義でもCCCに来られて感慨深い。

「ふ、ふ、ふぅえっくしょん!」

交易区内にある唐辛子の集積所に来ると、身体が反応し始めた。自分の背の高さほどある唐辛子の山に全方位囲まれていたら、そりゃあクシャミも出る。

唐辛子に埋もれそう。

敷地内では品種や等級を仕分けし、中国全土、さらに世界各国に配送もしているという。柱に掲げられたスローガンもじわじわくるなあ。

蝦子に集結、世界と売買!
香り高く激辛で名高い重慶火鍋用の唐辛子の供給もここで請け負っているようだ(後ろの看板)。

そして、宋さんの倉庫で実際に唐辛子を手にして驚いた。どれもピッカピカでしっかりとした質感で、明らかに品質がいい。

豆板醤や泡辣椒(漬物)などに加工されることが多い二荆条(アルジンティアオ)。

ちぎって匂いを嗅いでみると、ナッツのように香ばしかったり、パプリカのような香りがしたり。それぞれの個性がはっきりと感じられ、料理に使うとどうなるのだろうと心が躍った。

唐辛子は夏に収穫のピークを迎えるため、新物が出回るのは秋口となる。宋さん曰く「11月の上旬だと、8月頃収穫された唐辛子が入荷してくるよ」とのこと。乾物も鮮度が重要と言われるが、こういうのを見てしまうと深く納得できる。

子弾頭(ズダントウ)。中辣香味好(辛さは普通で香りがよい)。
灯笼椒(ドンロンジャオ)。微辛特香(辛さ控えめ、香り抜群)。
大条子(ダーティァオズ)。中辣特香(辛さは普通で香り抜群)。

ここで見たのは、ざっと7~8種類くらいの唐辛子だろうか。風味について伺いながら、それぞれ唐辛子をどう使い分けるのか尋ねてみた。

料理には1種類だけで使うのではなく、ブレンドするんだよ。香りがいいものと甘さがあるものとか、辛いものと香りのいいものとか、だいたい2~3種類を混ぜて使うんだ

なるほど、コーヒー豆をブレンドするように、辣の国の人たちは、唐辛子の香りや辛さを理解して調合するわけだ。辛さと香りを使い分けるなんてカッコいいなあ。

同じ敷地内を進むと、唐辛子を選別、加工する農協的な施設もあった。

加工ゾーン。敷地が広い。

近くに行ってみると、お母さんたちや仕事を手伝う子供たちが地べたに座り、唐辛子の枝の部分をせっせと取り外している。

私たちが手にする唐辛子は枝と実がバラしてあるが、それも誰かがこうして仕事をしているからだよなあ。そんななことを思いながら、CCCを後にした。

赤色上等!唐辛子専門店の充実のラインナップ

最後に旧市場のエリアに戻り、案内してくれた宋さんの店「宋三娃」でお買いものタイム。

お兄さんは「妹の唐辛子を購入するから」とガチの大人買い。選んだ唐辛子は「満天星」だ。これは小さくて鋭い辛さ、強い香りのある品種で、林さんのお気に入り。たっぷり15kgをその場で挽いてお買い上げである。

挽きたての干辣椒(乾燥唐辛子)。

私は手間のかかる買い方で恐縮しつつも、店頭にある干辣椒(乾燥唐辛子)を少しずつ全種類買わせてもらうことに。

品種と風味を教えてもらい、それぞれ袋にメモを入れて持ち帰った。

この店では、干辣椒(乾燥唐辛子)だけでなく加工品も充実しており、看板にあるものをざっと見ただけでも10種類はあっただろうか。

泡椒(発酵唐辛子)、香脆椒系列(クリスピーな食感が楽しめる唐辛子)、香辣豆豉(唐辛子風味の豆豉)、香辣豆腐乳(唐辛子風味の腐乳)、辣椒醤(唐辛子味噌)、刀剁糟辣椒(塩漬け刻み唐辛子)、紅油辣椒(辣油漬け唐辛子)、焼烤辣椒面(BBQ用唐辛子粉)、紅油辣椒面(唐辛子粉入り辣油)、正宗柴火煳辣椒面(小枝で燻した伝統的な焙煎唐辛子)…。狭い店内ではあるが、唐辛子加工品の博覧会状態。

泡椒(漬物)系唐辛子。
油辣椒、すなわち食べる辣油系唐辛子。
香脆椒系列。
貴州料理に欠かせない糟辣椒(塩漬け刻み唐辛子)。

さすがにここで爆買いしたら帰りにヨタヨタになることは目に見えているので、容器入りの加工品は買わなかったが、うっかりタガが外れてしまったら大変なことになっていただろう。

なお、ここで買った唐辛子は、少しずつではあるが、福岡、大阪、山梨、吉祥寺でそれぞれに活用していただいた。その話はまた別の記事でご紹介したいと思う。

また、ピンチヒッターとして来てくださったお兄さんは、現在は遵義から引っ越してしまったが、地元の食に精通しており、大変心強かった。蝦子鎮の唐辛子市場をはじめ、羊肉粉、狗肉火鍋、米皮、豆花麺、遵義紅茶、各種小吃に至るまで、1泊2日で食べたいもの、行きたいところにお付き合いいただいた。改めて感謝申し上げます。

この記事の場所

貴州省遵義市蝦子鎮

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2020年2月に「スパイス大作戦 in 貴州 2020スライドショー|臭豆腐と納豆の罠/唐辛子が燃える時」と題して、この旅の一部始終をご紹介した食事つきスライドショーを「貴州火鍋」で開催しました。

サトタカ(佐藤貴子)

サトタカ(佐藤貴子)

食と旅を中心としたコンテンツ企画、編集、執筆、監修、コーディネートなどを手掛ける。10代でフランス菓子の再現にハマり、20代後半で中華食材の多様性にハマり、30代で中国郷土料理の沼にハマる。中華がわかるウェブマガジン『80C(ハオチー)』ディレクター。中華圏を胃袋目線で旅する『ROUNDTABLE』主宰(当サイト)。東洋医学を胃袋で学ぶ『古月漢満堂』企画など。