唐辛子を使った中国料理というと、ここ日本では真っ先に四川料理を思い浮かべる人が多い。しかし四川がそのメッカかというと、そんなことはない。雲南、貴州、四川、重慶など、中国西南部全体が唐辛子を使った‟辣(ラー)”な料理の宝庫だからだ。

そんな西南人の味覚を表した有名な俗諺に「四川人不怕辣 湖南人辣不怕 貴州人怕不辣」というものがある。

これは「四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くても恐れず、貴州人は辛くないのを恐れる」という意味で、四川より貴州のほうが辛さへの耐性は上をいくというわけだ。

さらに貴州料理の専門書を読むと、こんな言葉も出てくる。

「贵州一怪 辣椒是菜」(貴州の謎、それは唐辛子が料理であること)
「做不来辣椒嫁不来了人」(唐辛子(の調味料)を作れないと嫁にいけない)
「辣椒不辣不如吃茄子」(唐辛子が辛くなければ茄子を食べたほうがいい)

…ほかにもあるが、貴州人と唐辛子にちなんだエピソードは事欠かない。

事実、貴州省は唐辛子の名産地であり、遵義市に巨大な唐辛子市場を擁している上、加工や食べ方も実に多彩だ。

煎る、炙る、炒る、揚げると言った加熱調理はもちろん、塩漬け、塩水漬けの乳酸発酵、もち米との発酵など漬物のバリエーションも多い。こうして作られる唐辛子調味料は貴州料理の核となり、さまざまな料理に使われている。

貴州三大‟辣”調味料

なかでも貴州料理になくてはならない三種の神器がこれだ。

糟辣椒(ザオラージャオ)

肉厚の生唐辛子を刻むか、すり潰して、生姜、大蒜、塩、白酒とともに壺に入れて発酵させた唐辛子。香味野菜とともに発酵させるため、爽やかさとうまみがある。

加工:生を刻む→発酵
用途:炒飯、糟辣魚(魚の煮込み)、貴州式の回鍋肉、和えものなど
辛さ:角が取れたまろやかな辛さ

糟辣椒(ザオラージャオ)

糍粑辣椒(ツーバーラージャオ)

乾燥させた唐辛子をぬるま湯で戻し、生姜、大蒜とともに粗いペースト状にした練り唐辛子。伝統的に鉢で突いて作られるが、市場で買うと、専用のグラインダーにかけて挽いたものが渡される。

加工:乾燥→水戻し→潰す(+生姜+大蒜)
用途:豆豉火鍋、貴州式の辣子鶏(鶏の煮込み)、熱した油を加えて油辣椒(貴州式食べる辣油)など
辛さ:唐辛子の種類による。唐辛子そのものの風味が引き出される

貴陽市内の市場にて、挽きたての糍粑辣椒(ツーバーラージャオ)の原料。日持ちの観点から、にんにく、しょうがは後で自宅で加えることが多い。

煳辣椒(フーラージャオ)

乾燥唐辛子を焙煎し、粉状に挽いた唐辛子。小枝などで燻し香をつけて焙煎したものが好まれる。黒ければ黒いほど辛さと焙煎香が強く、辛い。挽き方は粗挽きから細挽きまでさまざま。

加工:乾燥→焙煎→粉砕
用途:蘸水(ジャンシュイ:つけだれ)、焼烤(シャオカオ:串などの炙り焼き)に付ける香辛料など
辛さ:ドライで香ばしい辛さ。焙煎香がある

フーラージャオ
煳辣椒(フーラージャオ)

これらは料理にも使われるほか、これをベースに新たな調味料も作られる。ほかにも、以下のような唐辛子加工品がよく使われている。

泡辣椒(パオラージャオ)

生唐辛子を丸ごと塩水に漬け、壺に入れて乳酸発酵させた唐辛子。赤唐辛子でも青唐辛子でも作られる。さっぱりとした辛さ。

加工:生を丸ごと発酵

油辣椒(ヨウラージャオ)

貴州式の辣油の一種。前述の糍粑辣椒に菜種油を加えて作るのが基本。豆豉(トウチ)やキノコなどを加えたものもあり、食べる辣油的な側面もある。かの有名な『老干妈(ラオガンマー)』は貴州省発の油辣椒ブランド。

加工:糍粑辣椒をつくる→油、香味野菜、調味料を加えて再加工

焼青椒(シャオチンジャオ)

肉厚の唐辛子を炭火で炙り、焼け焦げた皮を剥いて潰したもの。前菜の材料や、蘸水(つけだれ)の一部となる。

加工:生を炙る

貴陽市内の市場にて撮影。炙られた状態で買うことができる。

ほかにも挙げればキリがない。なんといっても、中国で一番有名な油辣椒(食べる辣油的なもの)は、貴州省の『老干妈(ラオガンマー)』だ。あの種類のおびただしさを思うと、どれだけ辛さ自慢のお土地柄なのかがわかるだろう。

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サトタカ(佐藤貴子)

食と旅を中心としたコンテンツ企画、編集、執筆、監修、コーディネートなどを手掛ける。10代でフランス菓子の再現にハマり、20代後半で中華食材の多様性にハマり、30代で中国郷土料理の沼にハマる。中華がわかるウェブマガジン『80C(ハオチー)』ディレクター。中華圏を胃袋目線で旅する『ROUNDTABLE』主宰(当サイト)。東洋医学を胃袋で学ぶ『古月漢満堂』企画など。