豚の刺身〈生皮〉を、雲南省大理白(ペー)族自治州で食べる。

生皮

その昔、テレビ番組で紹介されているのを見て以来、ずっと食べてみたいと思っていた料理がある。雲南省大理で暮らす少数民族、白族(ペー族)の伝統料理、生皮(shēng pí:シォンピー ※中国の標準語=普通話の読み方)だ。

豚の皮を稲藁で炙ったあと、冷水で洗い、毛をこそげ落としたものを薄くスライスし、その皮と豚の生肉とを合わせてタレにつけていただく、いわば〈豚の刺身〉。白族が集まるときには欠かせないと言われるほど、彼らの食文化に根付いたものである。

調べてみると、豚を生で食べる文化があるのは、広大な中国といえども、白族が暮らす雲南省大理の一部地域のみ。ならば、大理で食べるしかない…!

中国長距離バス
大理から約600km離れた雲南省南西部の街、西双版納(シーサンパンナ)から、夜行寝台バスで16時間かけて大理に到着。

初めての生皮は、肩透かし⁉

そんな憧れの生皮にありつけたのは、2019年3月某日。宿をとった大理駅近くの路地裏を歩くと、白族料理の看板を掲げる食堂が数件並んでいた。

見れば、どの店でも生皮があるようだ。そこで、感じのよさそうな女将さんが手招きする店に入ってみることに。

大理市白族料理店
大理駅からほど近い「喜州白家食館」。喜州は大理駅から北に約35km、白族が暮らす鎮だ。

しかし、出てきた生皮は、想像していた〈豚の刺身〉ではなかった。炙った豚の皮と千切りの野菜を、唐辛子ベースの辛いタレで混ぜてあり、どこから見ても〈豚皮の和えもの〉にしか見えない。

生皮

一方、店内に貼ってあった生皮の写真は、炙った豚の皮と生肉を盛り付けた〈イメージ通り〉のもの。女将さんに聞いてみると、「生肉は旅行客が怖がって食べられないと思って、生肉は入れずに皮のみを和えものにしたのよ」と言われてしまった。

たしかに食べやすいことは食べやすい。炙った皮のコリコリした食感が楽しめ、ピリ辛でビールが進む冷菜のようだ。しかし、“豚の刺身”をイメージしていた私にとっては、肩透かしを食らったような初体験となってしまった。

3人で3品注文。家庭料理の店らしく、炒めものも素朴で美味。当地の地ビール「大理ビール」を置いているのもいい。

二度目の生皮は、イメージ通り。でも……!

その2ヶ月後。ひょんなことから再び大理を訪れることになった。そりゃあ、食べるしかないでしょう。リベンジは、大理古城から車で約30分のところにある喜洲古鎮だ。

市場の向かいの名もなき食堂ををのぞくと、刺身状の生皮をつまみに、昼間から呑んでいるおじいさん達の姿が見える。ここならいけそうだ。

喜州古鎮
女子一人で入るのに若干躊躇する佇まいではある。

さっそく生皮をお願いすると、「皮だけ?肉もつける?」と女将さん。もちろん、皮も肉も両方に決まっている。すると、このやりとりを聞いていた若いお兄さんが「へえ、生肉なんてよく食べられるね!」とひと言。

(え!?若い人は生肉食べないの??おじいさん達も普通に食べてるし、市場の向かいだから新鮮だし、大丈夫だよね…?)

奥の調理台に目をやると、女将さんは生の豚肉を叩いている。これはさっきまで、常温で台の隅っこに無造作に置かれていた生の豚肉だ。

意気揚々と注文したのはよいけれど、今回は一人旅。万が一、食中毒になっても介抱してくれる人もいないし、何かあったら取り返しのつかないことになる。

寄生虫、E型肝炎、何が起きても自己責任。日本では食用を禁止されている豚の生肉。下手したら、死ぬかも…。こういうとき、人は一瞬で様々な悲劇を思い浮かべる。

そんな不安の最中に、思い焦がれた一皿、もとい、現在は恐怖が上回ってしまった生皮こと〈豚の刺身〉が登場した。

生皮
これがイメージ通りの生皮。豚の刺身だ。

皮は前回同様、表面を炙ってあるものの、肉は完全に生。これこそイメージ通りの生皮だ。

躊躇する気持ちもあったが、生肉つきで注文したのは自分。ここでみんなに味を伝えなければ…!そんな謎の使命感が出てきて、口に入れた。

肉は全く生臭みがなく、さっぱり。細かく刻んであるので、軟らかい歯触りだ。

一方、皮はゴムのような弾力で歯ごたえ十分。タレは黒酢ベースで唐辛子がたっぷり入っており、たっぷりつけていただいた。唐辛子に少しは殺菌作用がありそうだと思ったからだが、当然、なんの根拠もない。

ふと気づいたら、皿の上から半分なくなっていたのは、思いのほかおいしかったからである。

生皮
大理市内の市場で見かけた生皮の皮の部分。

結局、その後何事もなかったが、食べてから1ヶ月くらいは「突然発症したらどうしよう?」と不安な日々を過ごしたことは白状しよう。

今は中国でも豚の生食の危険性が認知され、現地でも生肉の部分を食することは少なくなっているという生皮。しかし、白族にとっては伝統食でもあり、今も人気があるのは事実だ。

日本人なら健康を害する危険性も否めないため、おすすめはしない。しかし、私のようにどうしても食べてみたいと思ってしまったなら、炙った皮の部分だけ食すといいだろう。現地の食は、くれぐれも自己責任で。

この記事の場所

大理市喜洲鎮

マサラ

辺境旅行を続ける最強の旅姉妹の妹。得意なエリアは中国(特に雲南省)、ミャンマー、タイ、ラオス。大学の中国語学科を卒業後、台湾で働いた経験あり。特に中華圏に強く、中国語堪能。現地旅行会社からも「そんな場所&そんな行き方、知らなかった!」と言われるほどディープな旅をごくごく自然にやってのける、旅のツワモノ。