雲南省に初めて行くなら、夏がおすすめだ。
なぜなら、雲南省のきのこの旬は夏。7月から8月にかけて、省都・昆明のきのこ専門市場を訪れれば、見渡す限りきのこだらけ。松茸と牛肝菌(ヤマドリタケ≒ポルチーニ)がひしめき合う眼福とともに、きのこの香りで満たされる。
しかし、昆明人が狙っているのは松茸ではない。松茸など目じゃないから。
そのひとつが、ケイトウの花が一瞬にして灰になったかのような見た目の干巴(ガンバー)。世の中のすべてのきのこの香りを凝縮したかようなこのきのこは、昆明人が愛してやまない夏の美味。スープによく合う鶏枞(ジーソン)は、大きさ別にザルの上に並べられ、その日の晩ごはんになるのを待っている。
日本では、香りのほぼない栽培品のきのこが年中出回っており、旬に野生のきのこにありつける人はごくわずかだ。一方、旬の味覚を大切にする昆明人は、夏場、多少お金がかかっても、ここぞとばかり野生のきのこを食べまくる。
調理法で一番のおすすめはきのこ鍋。そこで丸鶏でとったリッチなスープに、自分好みの野生のきのこをこれでもか!!!と投入しよう。
鶏ときのこが抱き合った、太く揺るぎない旨みの世界に没入できるのは、世界広しといえども、きっと夏の昆明だけだ。
昆明市内の関平路と関興路付近は、きのこ鍋の専門店が立ち並ぶ一大ストリートとなっている。夏はきのこの旬なので、入れないこともある。できれば予約してでかけよう。
ダイナースカード会報誌『SIGNATURE』2019年5月号 特集「きのこ王国 雲南」(p30~43)で、雲南省のきのこについて取材・執筆しています。
この記事の場所
雲南省昆明市
サトタカ(佐藤貴子)
食と旅を中心としたコンテンツ企画、編集、執筆、監修、コーディネートなどを手掛ける。10代でフランス菓子の再現にハマり、20代後半で中華食材の多様性にハマり、30代で中国郷土料理の沼にハマる。中華がわかるウェブマガジン『80C(ハオチー)』ディレクター。中華圏を胃袋目線で旅する『ROUNDTABLE』主宰(当サイト)。東洋医学を胃袋で学ぶ『古月漢満堂』企画など。