かねてから、中国料理を中国料理と呼ぶのは、「ヨーロッパ料理」と言うようなものだと思っている。
日本からみると、中国はひとつの国だ。しかし、かの国の民族は多く、国土は広い。地域によって収穫できる作物も違えば風土も違い、なんなら言葉も違っている。中国料理とは、多彩な地方郷土料理の総称なのだ。
そこで、胃袋目線で地図を眺めると、日本のメディアが報じるような、政治や爆買いとは異なる中国が見えてくる。
北方は小麦や雑穀を主食とし、南方は米が主食。沿岸部は海鮮料理が豊富で、内陸部は淡水魚を上手く食べさせる調理法が発達している。また、寒さが厳しく乾燥した地域は塩蔵食品が多く、温かい地域は発酵文化が花開く。
大地は繋がっているからこそ、食文化は行政区分の枠に収まらない。場所によってはゆるやかに融合し、風土に合った料理が生まれ、定着している。
こうして中国各地の食を訪ね、集中的に旅していたら、すっかりその沼にはまってしまった。
なかでも惹き付けられて止まないのは、中国西南部の食文化だ。少数民族が多く住む貴州省は、トマト、唐辛子、米のとぎ汁、わらび、小魚など、壷の中で発酵させる調味料づくりがさかん。家庭の台所から生まれた、創意工夫に満ちたうまみがそこにある。
また、南北に長く標高差があり、緑に恵まれた雲南省は、ヤクの肉からマンゴーまで、ひとつの省とは思えないほど多彩な食材で溢れている。
特に夏場は松茸とポルチーニが同時に出てくるきのこ天国。これらの食材が一挙に集まる省都・昆明の市場を訪れれば、その躍動感に、食に関心がなくともアドレナリンが出っぱなしになる。
多くの日本人にとって、大陸のハードルは高いように見える。直行便がないとなると、なおさらだ。しかし一度、胃袋目線で中国を見て、地方を旅してみてほしい。きっと今まで見ていた中国とは、違う世界を五感で体験できるはずだから。
サトタカ(佐藤貴子)
食と旅を中心としたコンテンツ企画、編集、執筆、監修、コーディネートなどを手掛ける。10代でフランス菓子の再現にハマり、20代後半で中華食材の多様性にハマり、30代で中国郷土料理の沼にハマる。中華がわかるウェブマガジン『80C(ハオチー)』ディレクター。中華圏を胃袋目線で旅する『ROUNDTABLE』主宰(当サイト)。東洋医学を胃袋で学ぶ『古月漢満堂』企画など。