その飛行はまるで、ドローンに乗っているかのようだ。
地上の遥か上空を飛ぶジェット機とは異なり、地面の凹凸まではっきり見える高さで飛ぶプロペラ機。一度乗って、その景色の虜になった。
初めてのフライトは、札幌の丘珠空港から釧路空港の間の45分。札幌の街を抜け、道南の雄大な自然が眼下に流れるまでをかぶりつきで見られるのは、このシートだけだろう。
じゃあ、プロペラ機に乗らないとその景色が楽しめないのかというと、そんなことはない。同じような光景が、ジェット機でも楽しめる時間帯がある。
それは到着地まであと40分、トイレは済ませておいてね~、という機内アナウンスが流れてしばらくした頃。高度がぐっと下がってから着陸までのひとときだ。
大地に描かれた河川のうねり。豆粒のような車の往来。山の木々や色合いまでもクリアに見えるようになると、いつもこの飛行と景色にBGMをつけたくなる。
選ぶのは、すこしゆったりしたリズムの曲だ。早いテンポの曲は、気持ちが追い付かない。
例えば、赤土の見える大地を眺めながらの飛行は、Esperanza Spaldingの「Black Gold」。高貴ささえ漂う歌い始めのアカペラと、続くリズムが飛行機の浮遊感に絶妙にシンクロする。
この曲、機上で何度聞いたかわからないなあ。
心が研ぎ澄まされるような、透明感のあるピアノやギターのソロもいい。上原ひろみの「blackbird」は、これから踏まんとする土地へ想いを馳せるのに、出だしから気持ちよく心をドライブさせてくれる。ご存じThe Beatlesのカバーだ。
ゆったりとした三拍子(ワルツ)も、リラックスしながら気分が乗る。
ものんくるの「魔法がとけたなら」は、きゅんとくるメロディーライン。頼んでもいないのに、脳内のいろんな引き出しが開いて、泣ける。
ああ、もうすぐ着くんだ。地上がくっきり見え始めるそんなとき、ずっと会っていなくて、会いたかったひとに会えるような、なんとも言えない気持ちになる。
この高度と時間が、飛行機に乗っているなかで一番好きかもしれない。
サトタカ(佐藤貴子)
食と旅を中心としたコンテンツ企画、編集、執筆、監修、コーディネートなどを手掛ける。10代でフランス菓子の再現にハマり、20代後半で中華食材の多様性にハマり、30代で中国郷土料理の沼にハマる。中華がわかるウェブマガジン『80C(ハオチー)』ディレクター。中華圏を胃袋目線で旅する『ROUNDTABLE』主宰(当サイト)。東洋医学を胃袋で学ぶ『古月漢満堂』企画など。